Dockerで構築するFileBrowser:軽量Webファイルマネージャの運用ガイド

目次

第1章:FileBrowserの概要と利用価値

軽量WebファイルマネージャとしてのFileBrowser

FileBrowser は、Webブラウザ上でファイル操作が可能な軽量のファイルマネージャである。Go言語で実装されており、単一バイナリで配布される点が特徴で、インストールや環境構築が非常にシンプルである。Docker 版では公式イメージが提供されており、すぐにコンテナとして起動できる利便性が高い。

FileBrowser公式サイト 外部 filebrowser.org Webブラウザ上で動作する軽量ファイルマネージャ。Go言語製・単一バイナリで簡単導入、Docker対応。

主な機能には以下が含まれる:

  • ファイル・ディレクトリの閲覧、作成、削除、移動、アップロード、ダウンロード
  • ユーザーごとのアクセス制御と権限設定
  • 外観テーマのカスタマイズ(ダークモード対応など)
  • サムネイル表示、メディアプレビュー対応

このように、単純なファイルビューアではなく、アクセス管理付きのポータル型ファイル操作環境としての利用が可能である。特に軽量であることから、Raspberry Pi や小規模なVPSにも適しており、ローカルサーバ用途での導入が進んでいる。

ローカル環境・リモート管理・NAS風UIとしての利便性

FileBrowser の魅力は、その「柔軟な導入形態」にある。ローカルフォルダを対象にすれば、個人PCや開発環境のファイル管理ツールとして使え、Docker 上に構築すればポータブルなNASのように動作させることが可能である。

特に以下のような場面で威力を発揮する:

  • 自宅サーバ上でのファイル共有インターフェース
  • 外出先からのリモートアクセス(HTTPS化によりセキュアに)
  • 複数人によるディレクトリベースのアクセス制御(ユーザーごとにルート設定)

これらの機能により、FileBrowser は「クラウド不要の自己完結型Webストレージ」としての役割を果たす。DropboxやGoogle Driveに依存せずにファイルを管理・共有できるのは、プライバシー重視のユーザーや企業内ユースにとって大きな利点である。

CLIやSFTPとの比較と位置づけ

従来、Linux環境でのファイル管理といえば、scprsync、または SFTP を介したコマンドラインベースの操作が主流であった。これらは効率的である一方、操作には一定のスキルが要求される。

FileBrowser はそうした CLI 文化とは異なり、GUI による直感的操作を前提としたユーザー体験を提供する。以下のような比較ができる:

観点CLI/SFTPFileBrowser
操作性高速だが習熟が必要視覚的にわかりやすく直感的
権限管理ファイルシステム依存ユーザー・ロール単位で管理可能
可搬性クライアント環境に依存ブラウザがあれば利用可能
拡張性スクリプト連携が得意プラグインは少ないがUIでカバー

このように、FileBrowser は CLI の補完ではなく、GUIベースのファイル操作という別の選択肢を提供しており、技術者から一般ユーザーまで幅広い層が利用可能なソリューションである。


– 軽量性:単一バイナリ構成とDocker対応により導入が容易
– 利便性:リモート・ローカル問わず多様な利用形態に対応
– 比較優位:CLI/SFTPに対して視覚的操作性と柔軟な権限管理で差別化


第2章:Docker構成と永続化ディレクトリの設計

マウント戦略:ホストパスとボリュームの使い分け

DockerでFileBrowserを運用する際、最初に検討すべきはデータの永続化戦略である。コンテナは本質的に一時的な存在であるため、ファイルの保存や設定情報はホスト側に確保する必要がある。ここで選択肢となるのが、ホストパスバインドとDockerボリュームである。

  • ホストパスバインド:具体的なホスト上のパスを指定してマウント。ユーザーが直接ファイル構造を把握・操作できる。
  • Dockerボリューム:Dockerが管理する抽象化されたストレージ。移植性・自動化に優れるが、直接の操作性はやや落ちる。

FileBrowserでは、ユーザーがファイルの所在を明確に把握したい場面が多いため、ホストパスの明示的マウントが推奨される。たとえば以下のような構成が一般的である:

volumes:
  - /home/user/files:/srv
  - ./config:/config

このようにすることで、FileBrowserのWeb UI上で /srv 配下のディレクトリを操作でき、同時に設定ファイルもホスト側に保持される。

設定ファイル(config.json)とデータベース(filebrowser.db)の永続化

FileBrowserは以下の2つのファイルに重要な設定情報を格納する:

  • config.json:ユーザー情報やテーマ設定、デフォルトディレクトリなどの設定
  • filebrowser.db:ユーザー認証やアクセス制御などのデータベース

これらは /config ディレクトリ以下に格納されるため、このパスの永続化が極めて重要である。これを怠ると、コンテナ再起動時にユーザー情報などが失われる。

推奨される構成は次のとおり:

mkdir -p ~/filebrowser/config
mkdir -p ~/filebrowser/files
volumes:
  - ~/filebrowser/files:/srv
  - ~/filebrowser/config:/config

これにより、FileBrowserはホスト上の明確なパスに設定とデータを保持でき、バックアップやバージョン管理も容易になる。

docker-compose.ymlによる定義例とカスタマイズ要点

Docker Compose を使うことで、FileBrowserの定義と起動を一元化・自動化できる。

以下は現在使用中の docker-compose.yml の例である:

services:
  filebrowser:
    image: filebrowser/filebrowser:s6
    container_name: filebrowser
    ports:
      - 8080:80
    volumes:
      - C:/Users/UserName/projects:/srv
      - C:/Users/UserName/projects/filebrowser/config:/config
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
    restart: unless-stopped

カスタマイズ要点:

ポート番号の変更:複数のWebサービスと競合する場合は 8081:80 などに調整

環境変数による初期ユーザー定義
初回起動時に以下を指定しておくことで、ユーザー名とパスワードを設定できる

environment:
  - PUID=1000
  - PGID=1000

再起動ポリシーrestart: unless-stopped により予期せぬ停止時の自動復旧を担保

このように docker-compose.yml を適切に記述すれば、再現性・保守性の高いFileBrowser環境が構築できる。

– 永続化戦略:ホストパスによる明示的マウントで操作性と可視性を確保
– 設定保全:config.jsonとfilebrowser.dbの保存により継続的運用を可能に
– compose活用:起動定義の一元管理とカスタマイズが柔軟に行える構成が鍵

第3章:Dockerによる起動とFileBrowser管理画面の活用

docker run / compose による起動方法とオプション整理

Docker を用いた FileBrowser の起動方法は大きく分けて2通りある:docker run コマンドによる即時起動と、docker-compose による構成ファイルベースの起動である。

docker run の基本例:

docker run -d \
  -v /home/user/files:/srv \
  -v /home/user/filebrowser/config:/config \
  -p 8080:80 \
  --name filebrowser \
  filebrowser/filebrowser

このコマンドでは /srv を操作対象ディレクトリとし、/config に設定ファイルを保存している。簡単に動作を試したいときには有効だが、再現性や保守性を考慮するならdocker-composeによる管理が推奨される。

docker-compose による起動:

すでに第2章で紹介した通り、docker-compose.yml により構成を定義しておけば、以下のように簡潔に起動できる。

docker-compose up -d

これにより、設定情報も含めた一貫した環境が構築可能であり、再起動や複数環境への展開もスムーズになる。

Web UIの初期設定とユーザー管理

FileBrowser の初期起動後、Webブラウザで http://<ホストIP>:8080 にアクセスすることでログイン画面が表示される。初回は以下のデフォルトユーザーでログインできる(バージョンによっては指定が必要):

  • ユーザー名:admin
  • パスワード:admin

ログイン後、最初に実施すべきは パスワードの変更ルートディレクトリの確認 である。これらは設定画面の「ユーザー」セクションから行える。

ユーザーごとに以下の属性を定義可能:

  • ルートディレクトリ(個別のファイル空間の割当)
  • アクセス権限(読み取り専用、編集可、削除禁止など)
  • グループロール(複数ユーザーの一括管理)

FileBrowser は1インスタンスで複数ユーザーを安全に管理できる設計となっており、小規模なチーム利用にも適している。

日本語化、テーマ変更、ロール管理など基本機能の把握

FileBrowser は国際化対応がされており、インターフェースを日本語に設定することも可能である。これは画面右上の「設定(Settings)」>「インターフェース」>「言語」から選択可能。

主なカスタマイズ項目:

  • テーマ変更:ダーク/ライトテーマ、カスタムCSSの適用
  • 表示設定:表示フォーマット(リスト/グリッド)、サムネイル有無
  • ロール管理:管理者権限の分離、特定機能の利用制限

また、FileBrowser の強みはその操作性のシンプルさにある。ドラッグ&ドロップでのファイルアップロード、右クリックでのコンテキスト操作、検索・フィルタ機能など、ブラウザネイティブなUXが確保されている。


– 起動手段:runとcomposeの2方式で、後者は再現性と保守性に優れる
– 初期設定:ユーザーとパスワードの管理でセキュリティを確保
– GUI操作:日本語化、テーマ、ロール制御により直感的なUIを実現

第4章:実運用における工夫とセキュリティ対策

ホストとの双方向同期の注意点(例:Syncthing併用時)

FileBrowserは、Webブラウザからファイルの編集・移動・削除が可能な軽量ファイルマネージャである。一方で、ホスト側でのファイル同期や変更との整合性を保つ場合には注意が必要である。

特に、Syncthing や rsync といったファイル同期ツールと併用する際には、以下のポイントに留意することが推奨される。

  • FileBrowserが参照する /srv ディレクトリと、同期対象が一致していること
  • 同期ツールとFileBrowserの双方が同時に同一ファイルへ書き込みを行わないように設計する(排他制御がないため、競合が発生する可能性がある)
  • ホスト側でファイルが変更された場合、それが即座にUIへ反映されない場合があり、画面リロードが必要となることがある

以上を踏まえると、FileBrowserは「操作用インターフェース」、同期ツールは「バックグラウンドの自動同期エンジン」として、役割を明確に分離するのが最適解である。


ポート、認証、ログの設定強化(TLS/HTTP Basic)

FileBrowserは標準でHTTPS機能を搭載していないため、外部からのアクセスを保護するにはリバースプロキシを通じたセキュリティ強化が必要である。とくに、通信の暗号化とユーザー認証の追加は必須の対策といえる。

セキュリティ強化の主な方法:

  • HTTPS化:Let’s Encrypt と Nginx や Caddy を組み合わせてTLSを終端する
  • HTTP Basic認証:Web UIへのアクセス前にベーシック認証を追加する
  • ログ出力:アクセスログや操作ログをDockerログ、あるいは外部ログサーバへ出力する

外部ストレージやクラウドディレクトリとの連携例

FileBrowserはあくまでローカルディレクトリにマウントされたファイルのみを扱うが、以下のように外部ストレージとの連携も可能である:

  • USBドライブやNASのマウント:ホストOSで /mnt/usb などとしてマウントし、そのパスをFileBrowserの対象にする
  • クラウドストレージ(例:Google Drive、OneDrive)とのFUSE連携
    • rclone mount を使ってクラウドドライブを仮想ファイルシステムとしてマウント
    • FileBrowser側では /mnt/cloud のようにアクセス可能にする

これにより、FileBrowserがローカルとクラウドの橋渡し的存在として機能し、より柔軟なファイル運用が可能となる。ただし、クラウドサービスとの間で発生するAPI制限や認証期限には注意が必要である。


– 同期運用:Syncthing等との競合回避が安定運用の鍵
– セキュリティ強化:HTTPS化とBasic認証で公開環境にも対応可能
– 拡張性:外部ストレージやクラウド連携で利用範囲を大幅に拡張

第5章:応用シナリオとトラブルシューティング集

ローカルサーバ管理、チーム共有、個人NAS化としての活用

FileBrowserはその柔軟性と簡便なUIにより、さまざまなシーンでの活用が期待される。代表的な3つのシナリオを以下に示す。

1. ローカルサーバ管理

開発者や管理者がローカルサーバ上のログファイルや成果物を素早く確認・ダウンロードする用途に最適である。SSH経由でログインしなくても、ブラウザ上で対象ファイルにアクセスできるため、運用効率が向上する。

2. チーム共有

小規模チーム内での成果物共有に利用するケース。各メンバーごとにルートディレクトリを設定すれば、隔離されたファイル空間を持たせることができ、アクセス制御も容易に行える。

3. 個人NAS化

Docker対応のNASキット(例:Raspberry Pi + 外付けHDD)上にFileBrowserを構築すれば、低コストな自己完結型Webストレージが完成する。クラウドサービスを使わず、自分だけのファイルポータルを構築できる点が魅力である。

よくあるエラー(権限、ボリューム未マウント、ログイン失敗)への対処法

FileBrowserをDockerで運用する際、以下のようなトラブルが頻出する。事前に理解しておくことでトラブルシュートが容易になる。

1. ファイルにアクセスできない(Permission denied)

  • 原因:ホスト側のファイルにFileBrowserのコンテナがアクセス権を持っていない
  • 対策:ホストの対象ディレクトリのパーミッションを確認し、PUID/PGID 環境変数を使って正しいユーザーでコンテナを実行

2. マウントパスが空で何も表示されない

  • 原因:docker rundocker-compose でマウント指定が正しくされていない
  • 対策:volumes: セクションを再確認し、ホスト側ディレクトリが実在することを確認する

3. ログインができない(adminでログイン不可)

  • 原因:初期パスワードが不明または設定済み
  • 対策:filebrowser config add コマンドでユーザーを追加、または filebrowser.db を初期化して再設定

バックアップ戦略とバージョンアップ時の注意点

FileBrowser自体はシンプルな構成であり、設定とファイルが分離されているため、バックアップも容易である。推奨されるバックアップ要素は以下の通り:

  • /config ディレクトリ(config.jsonとfilebrowser.dbを含む)
  • /srv ディレクトリ(操作対象のファイル群)

これらを定期的に rsynctar で保存することで、万一の際にも復旧可能である。

バージョンアップ時の注意点:

  • 公式Dockerイメージは latest タグの自動更新があるため、明示的なバージョン指定を推奨(例:filebrowser/filebrowser:v2.27.0
  • バージョンによっては設定ファイル形式が変わるため、アップグレード前にリリースノートを確認することが重要
  • アップグレード前には必ず config のバックアップを取得

– 活用範囲:ローカル管理からチーム共有、NAS用途まで幅広く対応
– トラブル対策:マウント・権限・認証まわりの典型エラーを把握
– バックアップ戦略:設定とファイルの分離により簡易な保全が可能

記事の総括

概要の振り返り

本記事では、FileBrowserをDocker上で運用する方法について、基本から応用まで体系的に解説してきた。

第1章では、FileBrowserの概要とその価値について述べた。CLIやSFTPとの違いを明示し、直感的なGUI操作とアクセス制御のしやすさが強みである点を確認した。

第2章では、Docker上での永続化構成について取り上げた。ホストパスとボリュームの使い分け、重要な設定ファイルの保全、docker-compose による定義方法を具体的に提示した。

第3章では、実際の起動方法と初期設定、Web UIを用いたユーザー・権限管理について解説。日本語化やテーマ変更など、操作性向上の工夫も紹介した。

第4章では、実運用で直面する課題とその対策にフォーカス。ファイル同期時の注意点、HTTPS化によるセキュリティ強化、外部ストレージとの連携方法を網羅した。

第5章では、応用シナリオとトラブル対応を通じて、FileBrowserの実用的な導入例と、現場で役立つエラーハンドリング、バックアップ戦略を解説した。

読者の次アクション(行動誘導)

  • セキュリティ強化へ:NginxやCaddyによるHTTPSリバースプロキシ設定を学びたい方は it/security-nginx-reverseproxy ノードへ。
  • クラウド連携を深掘り:rcloneやFUSEを使ったGoogle Drive連携手法は it/cloud-fuse に展開中。
  • 実践Dockerスキル強化:他のWebアプリのDocker運用法(例:Nextcloud、Giteaなど)を知りたい場合は docker-app-suite ノードを参照。

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  • 参考文献・技術キーワード
    • Docker公式ドキュメント(Volumes, Compose)
    • FileBrowser GitHub公式ページ(設定とセキュリティ情報)
    • rclone, Syncthing, Nginxリバースプロキシ構成
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